退職給付会計は数理計算上の差異や勤務費用など普段使わない専門用語が多用されるので、イメージが掴みにくいですよね。
私は実務で退職給付の処理をしていましたが、慣れるまでは処理に時間がかかり、合っているかも確信が持てなく苦手でした。
なので、退職給付会計は本で体系的に知識を整理することをおすすめします。
この記事では、退職給付会計を学ぶためにおすすめな本を紹介します。実際に私が経理の実務で参照していたものなので、退職給付会計を学ぶのに役立ちますよ。
では、纏めていきます。
【前提】退職給付会計とは何か【目的を考える】
退職給付会計を理解するためには、退職給付会計を行う目的を考えると理解しやすいですよ。
退職給付会計の目的は、従業員の勤務期間に応じて債務を毎期認識して、退職まで積み立てることです。つまり、発生主義に基づいて役務の提供(従業員が働いた)の対価を見積ります。
なので、退職給付費用(P/L)は従業員に退職金を払った時ではなく、勤務期間の間に分散して毎期費用が計上されますよ。
<具体例>
【前提】
- A従業員は1年間勤務をしたら、100円の退職金を将来受け取る権利がある。
- A従業員は3年間勤務後に退職をして300円の退職金を貰った。
【仕訳】
- ×1年目 退職給付費用 100/退職給付引当金 100【積立】
- ×2年目 退職給付費用 100/退職給付引当金 100【積立】
- ×3年目 退職給付費用 100/退職給付引当金 100【積立】
- ×3年目 退職給付引当金300/現金 300【実際の退職金支払い】
※厳密に解説すると膨大な記述量となるので、割引計算など詳細は省いています。あくまでもイメージを掴むためのものとしてみてくださいね。
【注意点】退職給付会計は日本基準とIFRSで差がある
退職給付会計は日本基準とIFRS共に、従業員の勤務期間に応じて債務を毎期認識して退職まで積み立てる目的は同じです。
しかし、退職給付債務の計算方法にIFRSと日本基準は差があります。
特に大きな差が生じるのは、IFRSは過去勤務費用を即時に費用認識しますが、日本基準は一定の期間で按分して計算する点です。
詳細はあずさ監査法人の解説をご確認ください。→IFRS基準と日本基準の差異
なので、IFRSの退職給付会計を学びたい場合には、IFRSに対応した書籍を購入する必要があるのでご注意くださいね。紹介する退職給付会計の本でIFRSに対応して解説している本は、【IFRS対応】と冒頭に明記しますので参考にしてください。
包括的にIFRSを学びたい方におすすめな本→【IFRSを学ぶのにおすすめな本5冊】解説が分かりやすい書籍を紹介
【おすすめ】退職給付会計の解説が分かりやすい書籍5選
では、おすすめ書籍を纏めていきます。
まずは、箇条書きで紹介します。
- 2 退職給付会計のしくみ(第2版) 【図解でざっくり会計シリーズ】
- すらすら退職給付会計 単行本
- 退職給付会計の経理入門(第2版)
- 企業年金の最新課題に対応! 退職給付会計実務の手引き
- 退職給付会計の実務マニュアル〈第2版〉
では、一つ一つ解説していきますね。
【図解:初学者向け】2 退職給付会計のしくみ(第2版) 【図解でざっくり会計シリーズ】
<内容>
EY新日本監査法人の図解シリーズの退職給付会計版です。図解で初心者にも分かりやすく説明しているので視覚から退職給付会計をイメージできます。
<実際に読んでみて>
退職給付会計は専門用語が多く、文章だけだと慣れていない方は苦手意識を感じる可能性が高いです。まずは、図解で退職給付会計の全体像をイメージしたい方にはおすすめな本です。
【初学者向け】すらすら退職給付会計
<内容>
豊富な図表と事例で退職給付会計の基本から応用まで解説しています。本書を読めば退職給付会計の遅延認識(数理計算上の差異など)を含む応用論点まで理解できます。
<実際に読んでみて>
退職給付会計を初めて学ぶ方が段階を踏んで実務レベルまで理解できるように設計されています。退職給付会計を簡単な言葉に置き換えて説明しており、入門書としては迷わずおすすめできる1冊です。
【実務者向け】退職給付会計の経理入門(第2版)
<内容>
有限責任監査法人トーマツが発行した本で、ワークシートの作成方法をステップごとに解説しています。本書を読めば退職給付会計のワークシートを理解できますよ。
<実際に読んでみて>
退職給付会計の実務で重要なワークシートの作成方法を重点的に解説しています。入門と書いてありますが、経理実務者向けで初心者向けの解説ではありません。ワークシートの作成方法は参考となるので、ワークシート関連を学びたい方にはおすすめな本です。
【実務者向け】企業年金の最新課題に対応! 退職給付会計実務の手引き
<内容>
退職給付会計の数理実務が記載されているので、経理側の処理だけでなく信託銀行側の実務も理解できます。本書を読めば数理実務を理解できますよ。
<実際に読んでみて>
退職給付会計の数理実務を解説しているので、退職給付会計の数値の意味を深く理解できます。難解な本なので退職給付会計の基本を一通り抑えた後に読むことをお勧めします。
【IFRS:実務者向け】退職給付会計の実務マニュアル〈第2版〉
<内容>
債券の利回りがマイナスとなる場合の取扱いなど、多くの経理の実務担当者が直面する課題を丁寧に解説しています。本書を読めば、経理実務で必要な項目は理解できますよ。
<実際に読んでみて>
退職給付会計で論点になる事項はほとんど網羅されています。IFRSについても独立した章で取り扱っているので、IFRS適用企業にお勤めの方でも安心して読めますよ。経理の実務担当者は是非手元において欲しい1冊です。
【参考】退職給付会計と併せて包括利益計算書を勉強するのがおすすめ
退職給付会計は計算の結果、その他包括利益の構成要素である退職給付に係る調整額を変動させる可能性が高いです。
その為、その他包括利益と密接な関係にあります。
数理計算上の差異の未認識部分と過去勤務差異の税効果適用後の金額がその他の包括利益(退職給付に係る調整額)に計上されます。
その他包括利益は簡単に言えば確定していない損益をプールする場所と考えて貰えるとイメージがつきやすいです。
包括利益計算書については、下記の本が退職給付会計も含めて概要を解説していて分かりやすいです。
設例でわかる包括利益計算書のつくり方〈第2版〉
退職給付会計を学ぶのにおすすめな本の纏め
退職給付会計は難解なので、実務だけで理解するのは不可能と言っても過言ではありません。
特に遅延認識の項目は考え方が特殊なので、本で体系的に理解することをお勧めします。
退職給付会計は毎期生じる会計処理であり、監査法人と議論する機会が多いので勉強をすることをおすすめします。
一番のおすすめはすらすら退職給付会計 単行本です。本書は初学者から経理実務者まで幅広い層に対応しており、最後まで読めば退職給付会計の基本的な実務は理解できるようになります。